令和8年度税制改正に対応

3割特例が使えない8つのケース(国税庁Q&A 問115-2)

最終確認日: (数値は一次情報で照合)

結論から

3割特例は、個人事業者である適格請求書発行事業者の令和9年・令和10年に含まれる各課税期間で適用できる経過措置ですが、国税庁のQ&A問115-2は、個人事業者であっても適用を受けられない課税期間として8つを挙げています。① 課税期間の初日に恒久的施設を有しない国外事業者である課税期間、② 基準期間の課税売上高が1千万円を超える課税期間、③ 特定期間における課税売上高により事業者免税点制度の適用が制限される課税期間、④ 相続があった場合の特例により制限される課税期間、⑤ 課税事業者選択後2年以内に一般課税で調整対象固定資産の仕入れ等を行った場合、⑥ 一般課税で高額特定資産の仕入れ等を行った場合、⑦ 一般課税で金又は白金の地金等の仕入額の合計額(税抜き)が200万円以上である場合、⑧ 課税期間の特例(1月又は3月への短縮)の適用を受ける課税期間の8つです。自社がこれらに当たるかどうかの判断は、税理士または税務署にご確認ください。

この記事の要点

  • 3割特例の対象は個人事業者のみで、令和9年分・令和10年分の申告に限られる(28年改正法附則51の3①)。
  • 個人事業者であっても、国税庁Q&A問115-2が挙げる8つの課税期間では適用を受けられない。
  • ②の「基準期間の課税売上高が1千万円を超える」は消費税法9条1項の判定そのもので、3割特例だけの独自ルールではない。
  • その1,000万円は、2年前に免税事業者だった場合は税込の受取総額、課税事業者だった場合は税抜で判定する(基通1-4-5・1-4-2)。
  • 特集ページの「主な適用要件」は3項目だが、問115-2の③には特定期間による制限がある。3項目だけを読むと特定期間が抜ける。
  • ⑤について、免税事業者に係る登録の経過措置で登録した人は「課税選択届出書」を提出していないため該当しないと注記されている。

3割特例は「個人事業者の令和9年分・令和10年分」の制度

2割特例は令和8年9月30日までの日の属する課税期間で終わります。そのあと、個人事業者に限って令和9年分・令和10年分の2年間だけ使えるのが3割特例です。納付税額を売上税額の 3割 として計算します。

国税庁のQ&A問115-2は、この特例の根拠を 28年改正法附則51の3① と示したうえで、こう書いています。

ただし、個人事業者である適格請求書発行事業者であっても、以下の課税期間については、3割特例の適用を受けることはできません。

つまり「個人事業者である」ことは入口にすぎません。入口を通っても、課税期間ごとに8つの出口検査があります。

適用を受けられない8つの課税期間

問115-2 が挙げる①〜⑧です。国税庁は4つの見出しでまとめています。

見出し#適用を受けられない課税期間根拠
国外事業者が恒久的施設を有しない場合①適用を受けようとする課税期間の初日において恒久的施設を有しない国外事業者である課税期間28年改正法附則51の3①
過去の売上が一定金額以上ある場合②基準期間の課税売上高が1千万円を超える課税期間消法9①
同上③特定期間における課税売上高による納税義務の免除の特例により、事業者免税点制度の適用が制限される課税期間消法9の2①
同上④相続があった場合の納税義務の免除の特例により、事業者免税点制度の適用が制限される課税期間消法10・11・12
高額な資産を仕入れた場合⑤課税選択届出書を提出して課税事業者となった後2年以内に、一般課税で調整対象固定資産の仕入れ等を行った場合消法9⑦
同上⑥一般課税で高額特定資産の仕入れ等を行った場合(棚卸資産の調整の適用を受けた場合)消法12の4①②④
同上⑦一般課税で金又は白金の地金等を仕入れた金額の合計額(税抜き)が200万円以上である場合消法12の4③④
課税期間を短縮している場合⑧課税期間の特例の適用を受ける課税期間消法19

金額の定義も問115-2の注に書かれています。

  • 調整対象固定資産=一の取引単位につき、課税仕入れ等に係る支払対価の額(税抜き)が 100万円以上の、棚卸資産以外の資産(消法2①十六、消令5)
  • 高額特定資産=一の取引単位につき、支払対価の額(税抜き)が 1千万円以上の棚卸資産又は調整対象固定資産(消法12の4①、消令25の5①)

いずれも「一の取引単位につき」で数えます。年間の設備投資の合計額ではありません。

②の「1千万円」は、2年前が免税だったかどうかで数え方が変わる

ここが実務でいちばんずれるところです。

問115-2 は②の根拠を 消法9① と示しています。つまり3割特例だけの特別な1,000万円ルールがあるわけではなく、もともとの納税義務の判定と同じものを使います。

そして、その課税売上高の数え方は消費税法基本通達に定めがあります。

1-4-5 基準期間である課税期間において免税事業者であった事業者が、当該基準期間である課税期間中に国内において行った課税資産の譲渡等については消費税等が課されていない。したがって、その事業者の基準期間における課税売上高の算定に当たっては、(略)収受し、又は収受すべき金銭等の全額が当該事業者のその基準期間における課税売上高となる

一方、1-4-2 は、基準期間における課税売上高に消費税額等を含まないと定めています。まとめると次のとおりです。

基準期間(=2年前)の状態1千万円の判定に使う金額根拠
その期間に免税事業者だった受け取った金額の全額(税込)基通1-4-5
その期間に課税事業者だった消費税額等を含まない金額(税抜)基通1-4-2

受取総額が1,000万円から1,100万円の間にある場合、どちらで数えるかで結論が入れ替わります。

令和5年10月にインボイス登録し、以後ずっと課税事業者だった個人事業者であれば、令和9年分の基準期間は令和7年で、その年は課税事業者です。令和8年以降に新しく登録した場合は、基準期間がまだ免税期間にあたることがあります。自社の2年前がどちらだったかの確認を含め、判定は税理士または税務署にご確認ください。

「主な適用要件」の3項目だけを見ると、特定期間が抜ける

国税庁の特集ページには、3割特例の「主な適用要件」として次の3項目が示されています。

個人事業者であること
基準期間(適用を受ける年の2年前※)の課税売上高が1,000万円以下であること
インボイス発行事業者の登録を受けていること

同じページは、この「※」に「令和9年分なら令和7年、令和10年分なら令和8年」と注を付けています。

同じページは、この3項目に続けて「以下の適用可否フローチャートも合わせてご確認ください」と案内しています。そして問115-2の③には、特定期間における課税売上高による特例で事業者免税点制度の適用が制限される課税期間が挙げられています。特定期間は、個人事業者の場合は前年の1月1日から6月30日までの期間です。

「主な」と断ってある箇条書きは、要件の全部ではありません。3項目を満たしていても、③以降で外れることがあります。

⑤は、令和5年10月に登録した人の多くには当たらない

⑤は「課税選択届出書を提出して課税事業者となった後2年以内に…」という書き出しです。ここに問115-2の注3が付いています。

(注)3 免税事業者に係る登録の経過措置(28年改正法附則44④)の適用を受けて適格請求書発行事業者となった者は、「課税選択届出書」の提出をして課税事業者となっていませんので、これに該当することはありません。

インボイス制度の開始にあわせて登録し、そのまま課税事業者になった個人事業者は、この経過措置で登録している場合があります。その場合⑤には該当しないと国税庁自身が書いています。ただし⑥⑦(高額特定資産・金地金等)は課税選択の有無と関係なく並んでいます。自社の登録がどの経過措置によるものかは、税理士または税務署にご確認ください。

④の相続には、適用できる場合の注記がある

④は相続があった場合ですが、注1が続きます。

(注)1 相続のあった課税期間について、当該相続により事業者免税点制度の適用が制限される場合であっても、適格請求書発行事業者の登録が相続日以前であり、他の事由により3割特例の適用が制限される課税期間でなければ、3割特例の適用を受けることができます(28年改正法附則51の3①)。

登録が相続日以前かどうかという日付の前後が分岐点になっています。相続が絡む年分の申告は、この日付の確認を含めて税理士または税務署にご相談ください。

確認しておきたいこと

  • 令和9年分の基準期間(令和7年)と、令和10年分の基準期間(令和8年)の課税売上高がいくらか
  • その2年前に、自社が免税事業者だったか課税事業者だったか(数え方が変わります)
  • 前年1月1日から6月30日までの特定期間の課税売上高がいくらか
  • 令和8年・令和9年に、一の取引単位で税抜き100万円以上または1千万円以上の資産を一般課税で取得したか
  • 課税期間を1月又は3月に短縮する届出を出していないか

試算ツールでは、令和8年分から令和11年分までの納付税額の見当をつけられます。実際にどの計算方法で申告するかの判断と、8項目への当てはめは、税理士または税務署にご確認ください。

経営者の疑問と、制度の事実

答えるのは制度の事実だけです。有利・不利は事業ごとの事情で変わるため、判断は税理士・税務署にご確認ください。

経営者うちは個人事業だし、売上も1千万円に届かない。だったら令和9年分は3割で計算して問題ないな。

制度の事実国税庁のQ&A問115-2は、個人事業者である適格請求書発行事業者であっても3割特例の適用を受けられない課税期間を8つ挙げています。売上の大きさに関係しないものもあり、たとえば⑧の課税期間を1月又は3月に短縮している課税期間、⑤⑥⑦の高額な資産を一般課税で仕入れた場合などです。自社がどれかに当たるかどうかの判断は、税理士または税務署にご確認ください。

経営者2年前は免税だった。あの頃の売上は消費税をもらっていないから、そのままの金額で1千万円を見ればいいのか。

制度の事実消費税法基本通達1-4-5は、基準期間である課税期間において免税事業者であった事業者については、その期間中に行った課税資産の譲渡等に伴って収受し、又は収受すべき金銭等の全額が基準期間における課税売上高になるとしています。免税期間については消費税等が課されていないため、受け取った金額の全額で数えるという定めです。他方1-4-2は、基準期間における課税売上高に消費税額等を含まないとしています。どちらが当てはまるかは2年前の状態によりますので、税理士または税務署にご確認ください。

経営者国税庁のページに要件が3つ書いてあった。あれを満たしていれば足りるということでいいか。

制度の事実特集ページの「主な適用要件」は、個人事業者であること、基準期間(適用を受ける年の2年前)の課税売上高が1,000万円以下であること、インボイス発行事業者の登録を受けていることの3項目です。同ページは、あわせて適用可否フローチャートも確認するよう案内しています。またQ&A問115-2の③には、特定期間における課税売上高により事業者免税点制度の適用が制限される課税期間が挙げられており、この論点は3項目の中には現れません。判定の全体は税理士または税務署にご確認ください。

よくある質問

個人事業者であれば、令和9年分は自動的に3割特例で申告できますか?
国税庁のQ&A問115-2は、個人事業者である適格請求書発行事業者であっても3割特例の適用を受けられない課税期間として8つを挙げています。基準期間の課税売上高が1千万円を超える課税期間、特定期間による制限を受ける課税期間、課税期間を1月又は3月に短縮している課税期間などが含まれます。自社の課税期間がこれらに当たるかどうかは、税理士または税務署にご確認ください。
基準期間の1,000万円は、消費税込みの金額で数えるのですか?
問115-2は②の根拠を消費税法9条1項としており、3割特例に固有の判定方法はありません。消費税法基本通達1-4-5は、基準期間である課税期間において免税事業者であった事業者について、その期間中の課税資産の譲渡等に伴って収受し、又は収受すべき金銭等の全額が基準期間における課税売上高になるとしています。一方、1-4-2は基準期間における課税売上高に消費税額等を含まないとしています。2年前が免税事業者だったか課税事業者だったかで使う金額が変わるため、当てはめは税理士または税務署にご確認ください。
令和8年に機械を買いました。3割特例に影響しますか?
問115-2の⑤は、課税事業者選択届出書を提出して課税事業者となった後2年以内に一般課税で調整対象固定資産(一の取引単位につき税抜き100万円以上の棚卸資産以外の資産)の仕入れ等を行った場合を挙げています。⑥は一般課税で高額特定資産(一の取引単位につき税抜き1千万円以上の棚卸資産又は調整対象固定資産)の仕入れ等を行った場合です。いずれも金額・取引単位・課税方式の当てはめが必要ですので、税理士または税務署にご確認ください。
課税期間を3か月に区切っていると、なぜ3割特例が使えないのですか?
問115-2の⑧は「課税期間の特例の適用を受ける課税期間」を挙げており、注5で、消費税課税期間特例選択届出書の提出により課税期間を一月又は三月に短縮している課税期間であり、課税期間の特例の適用(不適用)により一の課税期間とみなされる課税期間も含むと説明しています(消法19)。理由の説明はQ&Aにはなく、適用できない課税期間として列挙されている形です。短縮をやめる手続きを含めた取扱いは税務署にご確認ください。

個別の判断について

適用の可否や有利・不利は、事業区分・基準期間の課税売上高・過去の届出など個別の事情で変わります。実際の判断の前に、税理士等の専門家、または所轄の税務署にご相談ください。

出典(一次情報)

法令・国税庁・省庁など公的機関の公表資料のみを参照しています(解説記事等の二次情報は使用していません)。

本ページは公表されている制度情報にもとづく解説と試算の補助であり、税務に関する助言ではありません。個別の判断は必ず税理士等の専門家にご確認ください(所轄の税務署でも確認できます)。

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