法人成りしたとき、個人事業者時代の課税売上高は法人に引き継がれるのか
最終確認日: (数値は一次情報で照合)
消費税の納税義務の有無の判定は事業者単位で行うため、法人成りする前の個人と、法人成り後の法人とは別々に判断します(国税庁 質疑応答事例「個人事業者の法人成りの場合の課税売上高の判定」)。消費税法基本通達1-4-6 の注は、個人事業者のいわゆる法人成りにより新たに設立された法人であっても、当該個人事業者の基準期間における課税売上高または特定期間における課税売上高は、当該法人の基準期間における課税売上高または特定期間における課税売上高とはならないとしています。タックスアンサー No.6531 にも、個人事業者であった期間の課税売上高はその法人の基準期間の課税売上高には含まれない旨の記載があります。ただし、その事業年度開始の日における資本金の額または出資の金額が1,000万円以上である新設法人や、特定新規設立法人などに該当する場合には納税義務は免除されません。また同じ質疑応答事例は、法人成りした年の個人事業者であった期間について、その年の基準期間の課税売上高が1,000万円を超えていれば納税義務は免除されないとしています。適格請求書発行事業者は基準期間における課税売上高にかかわらず納税義務は免除されません。自社の設立形態と各期の判定は、税理士または税務署にご確認ください。
この記事の要点
- 消費税の納税義務の判定は事業者単位で行い、法人成り前の個人と法人成り後の法人は別々に判断する(質疑応答事例「個人事業者の法人成りの場合の課税売上高の判定」)。
- 個人事業者であった期間の課税売上高は、その法人の基準期間における課税売上高にも特定期間における課税売上高にもならない(消費税法基本通達1-4-6 注)。
- ただし、その事業年度開始の日における資本金の額または出資の金額が1,000万円以上である新設法人に該当する場合は、納税義務は免除されない(タックスアンサー No.6531)。
- 資本金1,000万円未満でも、他の者に株式等の50パーセント超を保有される等の特定要件に該当し、判定対象者の基準期間相当期間の課税売上高が5億円を超える場合などは特定新規設立法人となる。
- 令和6年10月1日以後に開始する課税期間から、特定新規設立法人の判定に、判定対象者の売上金額、収入金額その他の収益の額の合計額が国外におけるものも含め50億円を超える場合が加わった。
- 法人成りした年の個人事業者であった期間については、その年の基準期間の課税売上高が1,000万円を超えていれば納税義務は免除されない。
- 適格請求書発行事業者は、その登録日の属する課税期間以後、基準期間における課税売上高にかかわらず納税義務は免除されない(消費税法基本通達1-4-1の2)。
判定は「人」ではなく「事業者」ごとに行う
長く個人事業でやってきた方が法人を設立する、いわゆる 法人成り。同じ人が同じ商売を続けるため、消費税の判定も引き継がれるように見えます。
しかし消費税法の判定は、事業者ごとに行われます。国税庁の質疑応答事例「個人事業者の法人成りの場合の課税売上高の判定」は、こう回答しています。
納税義務の有無の判定は、事業者単位で行うこととなりますから、法人成りする前の個人と、法人成り後の法人とは別々に判断することとなります。
個人事業者と、その人が設立した法人は、消費税では別の事業者として扱われます。
条文上の根拠は基本通達1-4-6 の注にある
消費税法基本通達1-4-6(新規開業等した場合の納税義務の免除)には、次の注が置かれています。
(注) 個人事業者のいわゆる法人成りにより新たに設立された法人であっても、当該個人事業者の基準期間における課税売上高又は特定期間における課税売上高は、当該法人の基準期間における課税売上高又は特定期間における課税売上高とはならないのであるから留意する。
ここで注目したいのは、基準期間だけでなく特定期間も並べて書かれていることです。
| 引き継がれないもの | 内容 |
|---|---|
| 基準期間における課税売上高 | 個人事業者の前々年の課税売上高は、法人の判定には使われない |
| 特定期間における課税売上高 | 個人事業者の前年1月1日から6月30日までの課税売上高も、法人の判定には使われない |
基準期間・特定期間そのものの意味は「[基準期間と特定期間とは何か](/articles/kijun-kikan-tokutei-kikan/)」で扱っています。
タックスアンサー No.6531 にも、同じ趣旨の一文があります。
なお、個人事業者がいわゆる法人成りにより新規に法人を設立した場合には、個人事業者であった期間の課税売上高は、その法人の基準期間の課税売上高には含まれません。
見落とされやすいのは「個人側の申告」
質疑応答事例には、引用した回答のあとに、次のなお書きが続いています。
なお、質問の場合、法人成りに係る個人事業者の法人成りした年の基準期間の課税売上高が1,000万円を超えていますので、その年の個人事業者であった期間については納税義務は免除されません。
つまり、法人が新しく始まることと、その年の個人側の判定は別々に進みます。
| 対象 | その年の判定 |
|---|---|
| 設立した法人 | 基準期間がないため、下記の該当事由がなければ納税義務は免除される |
| 個人事業者であった期間 | その年の基準期間(前々年)の課税売上高が1,000万円を超えていれば、納税義務は免除されない |
法人を設立した年に、個人としての課税期間が消えるわけではありません。個人側で必要になる手続は、税理士または税務署にご確認ください。
「引き継がない」には条件が付いている
質疑応答事例の回答は、条件付きの文になっています。
したがって、法人成りに係る個人事業者の前々年の課税売上高が1,000万円を超える場合であっても、法人成り後の法人が消費税法第12条の2第1項《新設法人の納税義務の免除の特例》に規定される新設法人に該当する場合を除き、前々事業年度の課税売上高がありませんので納税義務は生じません(基通1-4-6)。
「新設法人に該当する場合を除き」という条件です。この新設法人の線は、資本金の額で引かれています。タックスアンサー No.6531 の記載は次のとおりです。
(1) その事業年度の基準期間がない法人のうち、その事業年度開始の日における資本金の額または出資の金額が1,000万円以上であるとき
判定の基準時は その事業年度開始の日 です。設立の日だけを見るのではなく、事業年度ごとにその開始の日の金額で判定します。
資本金1,000万円未満でも該当することがある(特定新規設立法人)
No.6531 の注2は、特定新規設立法人について次のように記載しています。
(注2)特定新規設立法人とは、平成26年4月1日以後に設立した新規設立法人(その事業年度の基準期間がない法人で、その事業年度開始の日における資本金の額または出資の金額が1,000万円未満の法人)のうち、次の(1)、(2)のいずれにも該当する法人です。 (1) その基準期間がない事業年度開始の日において、他の者によりその新規設立法人の株式等の50パーセント超を直接または間接に保有される場合など、他の者によりその新規設立法人が支配される一定の場合(特定要件)に該当すること。 (2) 上記(1)の特定要件に該当するかどうかの判定の基礎となった他の者およびその他の者と一定の特殊な関係にある法人のうちいずれかの者(判定対象者)のその新規設立法人の当該事業年度の基準期間に相当する期間(基準期間相当期間)における課税売上高が5億円を超えていること
さらに、同じ注には令和6年の改正が記載されています。
(※)令和6年10月1日以後に開始する課税期間から、上記注2(2)の要件については、判定対象者の基準期間相当期間における課税売上高が5億円を超える場合または売上金額、収入金額その他の収益の額の合計額が、国外におけるものも含め50億円を超える場合となります。
金額の線は3本あることになります。
| 線 | 何を見るか |
|---|---|
| 1,000万円 | その事業年度開始の日における資本金の額または出資の金額(この金額以上なら新設法人) |
| 5億円 | 判定対象者の基準期間相当期間における課税売上高 |
| 50億円 | 判定対象者の売上金額、収入金額その他の収益の額の合計額(国外におけるものも含む。令和6年10月1日以後に開始する課税期間から) |
50億円の要件は、国内で行われる資産の譲渡等の対価に限りません。No.6531 は「国内において行われる資産の譲渡等の対価の額に限らず、国外において行われる資産の譲渡等の対価や資産の譲渡等の対価以外の収入も含みます」と記載しています。
新設法人・特定新規設立法人のほかにも該当事由がある
消費税法基本通達1-4-6 は、新たに設立された法人について、次のいずれかの規定の適用を受ける場合には納税義務は免除されないとしています。
| 記号 | 規定 |
|---|---|
| イ | 消費税法第9条第4項(課税事業者の選択) |
| ロ | 消費税法第9条の2第1項(前年又は前事業年度等における課税売上高による納税義務の免除の特例) |
| ハ | 消費税法第11条第3項又は第4項(合併があった場合の納税義務の免除の特例) |
| ニ | 消費税法第12条第1項又は第2項(分割等があった場合の納税義務の免除の特例) |
| ホ | 消費税法第12条の2第1項(新設法人の納税義務の免除の特例) |
| へ | 消費税法第12条の3第1項(特定新規設立法人の納税義務の免除の特例) |
| ト | 消費税法第12条の4第1項から第3項まで(高額特定資産を取得した場合等の納税義務の免除の特例) |
ロの特定期間の特例に注意してください。設立2期目の判定では、1期目に特定期間が生じていれば、その特定期間の判定も必要になります。この場合に見るのは法人自身の特定期間であり、個人事業者であった期間ではありません。
インボイス登録をしていれば、この判定とは別に課税事業者になる
ここまでは、消費税法第9条第1項本文の小規模事業者に係る納税義務の免除の話です。適格請求書発行事業者については、消費税法基本通達1-4-1の2 が次のように定めています。
1-4-1の2 適格請求書発行事業者は、その登録日の属する課税期間以後の課税期間については、法第9条第1項本文《小規模事業者に係る納税義務の免除》の規定の適用はないことに留意する。
タックスアンサー No.6531 にも「適格請求書発行事業者は、基準期間における課税売上高にかかわらず、納税義務は免除されません」と記載されています。
設立した法人が登録を受ける場合、基準期間の課税売上高がないことと、納税義務が免除されるかどうかは別の話になります。登録の手続と時期は「[インボイス発行事業者の登録申請はどう進めるか](/articles/invoice-toroku-shinsei/)」で扱っています。
確認しておきたいこと
- 設立する法人の事業年度開始の日における資本金の額または出資の金額が1,000万円以上かどうか
- 他の者に株式等の50パーセント超を直接または間接に保有される形になっていないかどうか
- 保有する側の課税売上高が5億円を超えていないか、収益の額の合計額が50億円を超えていないか(後者は令和6年10月1日以後に開始する課税期間から)
- 法人成りした年の個人事業者であった期間について、前々年の課税売上高が1,000万円を超えていないか
- 設立2期目の判定に備えて、1期目の特定期間の課税売上高または給与等支払額を把握しているか
- 法人として適格請求書発行事業者の登録を受けるかどうか
試算ツールでは、課税売上高と課税仕入れを入れて、課税期間ごとの納付税額の見当をつけられます。表示されるのは前提を置いた計算結果であり、納税義務の判定そのものではありません。判定は、税理士または税務署にご確認ください。
経営者の疑問と、制度の事実
答えるのは制度の事実だけです。有利・不利は事業ごとの事情で変わるため、判断は税理士・税務署にご確認ください。
経営者個人でやってきた事業を法人にする。前の年の売上が1,200万円あるが、法人でもそのまま課税事業者ということか。
制度の事実その金額がそのまま法人に持ち込まれる仕組みにはなっていません。消費税法基本通達1-4-6 の注は、個人事業者のいわゆる法人成りにより新たに設立された法人であっても、当該個人事業者の基準期間における課税売上高または特定期間における課税売上高は、当該法人の基準期間における課税売上高または特定期間における課税売上高とはならないとしています。質疑応答事例「個人事業者の法人成りの場合の課税売上高の判定」も、判定は事業者単位で行うため、法人成り前の個人と法人成り後の法人とは別々に判断すると回答しています。ただし同じ回答は、新設法人に該当する場合を除くという条件を付けています。自社が新設法人に当たるかどうかは、税理士または税務署にご確認ください。
経営者では、法人を作った年は個人のほうも何もしなくてよいのか。
制度の事実そこは別の判定になります。同じ質疑応答事例は、法人成りに係る個人事業者の法人成りした年の基準期間の課税売上高が1,000万円を超えている場合、その年の個人事業者であった期間については納税義務は免除されないと回答しています。法人が設立されても、その年の個人としての課税期間は消費税法上そのまま存在し、判定は前々年の課税売上高で行われます。個人側で必要になる手続は、税理士または税務署にご確認ください。
経営者資本金を1,000万円にして信用を得たいと思っている。消費税の扱いは変わるのか。
制度の事実変わる分岐点として条文と国税庁の資料に書かれているのは、その事業年度開始の日における資本金の額または出資の金額が1,000万円以上かどうかという線です。タックスアンサー No.6531 は、その事業年度の基準期間がない法人のうち、その事業年度開始の日における資本金の額または出資の金額が1,000万円以上であるときは納税義務が免除されないと記載しています。資本金の額をいくらにするかという判断そのものは消費税以外の要素も関わりますので、税理士または税務署にご確認ください。
よくある質問
- 個人事業者のときの売上が1,000万円を超えていました。法人を作ると、その売上は法人の判定に使われますか?
- 消費税法基本通達1-4-6 の注は、個人事業者のいわゆる法人成りにより新たに設立された法人であっても、当該個人事業者の基準期間における課税売上高または特定期間における課税売上高は、当該法人の基準期間における課税売上高または特定期間における課税売上高とはならないとしています。質疑応答事例「個人事業者の法人成りの場合の課税売上高の判定」も、納税義務の有無の判定は事業者単位で行うため、法人成りする前の個人と法人成り後の法人とは別々に判断すると回答しています。自社の場合の判定は、税理士または税務署にご確認ください。
- 法人成りした年の、個人事業者であった期間の消費税はどうなりますか?
- 同じ質疑応答事例は、法人成りに係る個人事業者の法人成りした年の基準期間の課税売上高が1,000万円を超えている場合、その年の個人事業者であった期間については納税義務は免除されないと回答しています。法人が新しく始まることと、個人の側の課税期間が終わることは別の話として扱われます。個人側の申告の要否と範囲は、税理士または税務署にご確認ください。
- 資本金はいくらまでなら新設法人に該当しませんか?
- タックスアンサー No.6531 は、その事業年度の基準期間がない法人のうち、その事業年度開始の日における資本金の額または出資の金額が1,000万円以上であるときは納税義務が免除されないとしています。基準は「その事業年度開始の日」の金額です。自社の資本金の額と各事業年度の判定は、税理士または税務署にご確認ください。
- 設立してから増資した場合はどうなりますか?
- 判定はその事業年度開始の日における資本金の額または出資の金額で行われます(No.6531)。したがって、設立の日の資本金が1,000万円未満であっても、事業年度ごとにその開始の日の金額で判定することになります。増資の時期と各事業年度の判定の関係は、税理士または税務署にご確認ください。
- 特定新規設立法人とは何ですか?
- No.6531 の注2は、平成26年4月1日以後に設立した新規設立法人(その事業年度の基準期間がない法人で、その事業年度開始の日における資本金の額または出資の金額が1,000万円未満の法人)のうち、(1)その基準期間がない事業年度開始の日において、他の者によりその新規設立法人の株式等の50パーセント超を直接または間接に保有される場合など、他の者によりその新規設立法人が支配される一定の場合(特定要件)に該当し、かつ(2)その特定要件の判定の基礎となった他の者および一定の特殊な関係にある法人のうちいずれかの者(判定対象者)の基準期間に相当する期間における課税売上高が5億円を超えている法人であると記載しています。該当するかどうかの判定は、税理士または税務署にご確認ください。
- インボイス登録をしている場合は関係がありますか?
- 消費税法基本通達1-4-1の2は、適格請求書発行事業者は、その登録日の属する課税期間以後の課税期間については、消費税法第9条第1項本文(小規模事業者に係る納税義務の免除)の規定の適用はないとしています。No.6531 にも、適格請求書発行事業者は基準期間における課税売上高にかかわらず納税義務は免除されないと記載されています。新しく設立した法人が登録を受ける場合の手続と時期は、税理士または税務署にご確認ください。
個別の判断について
適用の可否や有利・不利は、事業区分・基準期間の課税売上高・過去の届出など個別の事情で変わります。実際の判断の前に、税理士等の専門家、または所轄の税務署にご相談ください。
出典(一次情報)
- 国税庁 質疑応答事例「個人事業者の法人成りの場合の課税売上高の判定」(令和7年8月1日現在)確認日 2026-08-22
- 国税庁 消費税法基本通達 第1章第4節 納税義務の免除(1-4-6・1-4-1の2)確認日 2026-08-22
- 国税庁 タックスアンサー No.6531 新規開業又は法人の新規設立のとき(令和8年4月1日現在法令等)確認日 2026-10-08
法令・国税庁・省庁など公的機関の公表資料のみを参照しています(解説記事等の二次情報は使用していません)。