令和8年度税制改正に対応

返品・値引きは2割特例・3割特例の計算に2か所で入る(消費税法38条は置き換えられていない)

最終確認日: (数値は一次情報で照合)

結論から

2割特例・3割特例を使う課税期間でも、返品や値引き(売上げに係る対価の返還等)は消費税額の計算に入ります。しかも2か所に入ります。1つ目は控除項目としてです。2割特例の根拠である平成28年改正法附則51条の2第1項が置き換えているのは消費税法30条から37条まで(仕入税額控除)だけであり、売上げに係る対価の返還等の控除を定めた消費税法38条1項は置き換えられていないため、そのまま適用されます。2つ目は特別控除税額の計算です。同附則51条の2第2項は、特別控除税額を「課税標準である金額の合計額に対する消費税額から当該課税期間における売上げに係る対価の返還等の金額に係る消費税額の合計額を控除した残額の100分の80に相当する金額」と定めています。3割特例の附則51条の3第2項も同じ形で、割合が100分の70です。なお貸倒れに係る消費税額(消費税法39条1項)は、この特別控除税額の計算からは控除されていません。控除の適用要件は返還等の明細を記録した帳簿の保存です(消費税法38条2項)。個別の申告での取扱いは、税理士または税務署にご確認ください。

この記事の要点

  • 2割特例・3割特例が置き換えるのは消費税法30条から37条まで(仕入税額控除)だけである(平成28年改正法附則51条の2第1項・51条の3第1項)。
  • 売上げに係る対価の返還等の控除(消費税法38条1項)は置き換えられていないため、そのまま適用される。
  • 特別控除税額は「課税標準額に対する消費税額 − 返還等に係る消費税額」に80%(3割特例は70%)を乗じた金額である(同附則51条の2第2項・51条の3第2項)。
  • つまり返品・値引きは、控除項目としてと、80%を乗じる前の金額の減額として、2か所に現れる。
  • 貸倒れに係る消費税額(消費税法39条1項)は、特別控除税額の計算の金額からは控除されていない。
  • 調整するのは返還等をした日の属する課税期間である(消費税法38条1項)。売った課税期間ではない。
  • 控除の適用要件は帳簿の保存のみで、返還インボイスの交付は控除の要件として書かれていない(消費税法38条2項)。
  • 課税資産の譲渡等の金額から返還等の金額を控除する経理処理を継続しているときは、その処理も認められる(消費税法基本通達14-1-8・国税庁タックスアンサーNo.6359)。
  • 免税事業者であった課税期間の売上げに係る返還等は、この控除の対象外である(消費税法基本通達14-1-6)。

特例が置き換えているのは「仕入税額控除」だけ

2割特例の根拠は、消費税法そのものではありません。平成28年改正法(所得税法等の一部を改正する法律・平成28年法律第15号)の附則51条の2です。e-Gov法令検索で消費税法の令和8年10月1日施行版を開くと、附則としてこの条文が付いています。

その第1項が何を置き換えているかが出発点になります。

(前略)同法第三十条から第三十七条までの規定により同法第三十条第一項に規定する課税標準額に対する消費税額から控除することができる同条第二項に規定する課税仕入れ等の税額の合計額は、同条から同法第三十七条までの規定にかかわらず、特別控除税額とすることができる。

置き換わるのは 30条から37条までです。ここは仕入税額控除の規定が並んでいる範囲です。

売上げに係る対価の返還等の控除は、消費税法38条です。この範囲に入っていません。貸倒れに係る消費税額の控除(消費税法39条)も同じく範囲外です。

3割特例の附則51条の3第1項も、置き換えの範囲は同じく「第三十条から第三十七条まで」と書かれています。

だから返品・値引きは「2か所」に現れる

置き換えられなかった消費税法38条1項は、こう定めています。

事業者(第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)が、国内において行つた課税資産の譲渡等(中略)につき、返品を受け、又は値引き若しくは割戻しをしたことにより、(中略)税込価額(中略)の全部若しくは一部の返還又は(中略)売掛金その他の債権の額の全部若しくは一部の減額(中略)をした場合には、当該売上げに係る対価の返還等をした日の属する課税期間の課税標準額に対する消費税額から(中略)百十分の七・八(中略)を乗じて算出した金額(中略)の合計額を控除する。

これが1か所目です。返還等に係る消費税額が、そのまま控除項目になります。

2か所目は、特別控除税額そのものの計算です。附則51条の2第2項を見ます。

2 前項に規定する特別控除税額とは、当該適格請求書発行事業者の当該課税期間の課税資産の譲渡等(中略)に係る課税標準である金額の合計額に対する消費税額から当該課税期間における新消費税法第三十八条第一項に規定する売上げに係る対価の返還等の金額に係る消費税額の合計額を控除した残額の百分の八十に相当する金額をいう。

3割特例の附則51条の3第2項も同じ形で、末尾が 百分の七十です。

つまり返還等は、80%(3割特例なら70%)を乗じる前の金額を減らし、そのうえで控除項目としても引かれます。

現れる場所何が起きるか根拠
特別控除税額の計算80%(70%)を乗じる前の金額から、返還等に係る消費税額が控除される平成28年改正法附則51条の2第2項・51条の3第2項
控除項目課税標準額に対する消費税額から、返還等に係る消費税額が控除される消費税法38条1項

条文を式の形に並べると、次のようになります。次の2本は当サイトが条文から組んだ式で、原文の引用ではありません。

当サイトが条文から組んだ式
特別控除税額 =(課税標準額に対する消費税額 − 売上げに係る対価の返還等に係る消費税額)× 80%(3割特例は 70%)
納付税額 = 課税標準額に対する消費税額 − 売上げに係る対価の返還等に係る消費税額 − 貸倒れに係る消費税額 − 特別控除税額

貸倒れは、特別控除税額の計算には現れない

上の附則51条の2第2項の条文に出てくるのは、消費税法38条1項に規定する売上げに係る対価の返還等だけです。貸倒れに係る消費税額を定めた消費税法39条1項は、この項に書かれていません。

一方で、消費税法39条は附則51条の2第1項の置き換えの範囲(30条から37条まで)にも入っていません。つまり、貸倒れの控除そのものは残るが、特別控除税額を計算するときの金額からは引かれないという書き分けになっています。

返品と貸倒れをひとまとめにして「どちらも同じように引く」と整理すると、条文の形からずれます。

調整するのは「返還等をした日」の課税期間

消費税法38条1項が控除の対象にしているのは、返還等をした日の属する課税期間です。売った課税期間に遡るのではありません。

国税庁タックスアンサーNo.6359も、次のように記載しています。

当初の課税資産の譲渡等を行った課税期間でなく、売上げに係る対価の返還等を行った課税期間において調整を行います。

ただし、売上割戻しについては日付のルールが別に置かれています。消費税法基本通達14-1-9は、算定基準が販売価額または販売数量によっており、かつ、その算定基準が相手方に明示されている売上割戻しは課税資産の譲渡等をした日とし、それ以外のものは通知または支払をした日としています。返品と同じ扱いで一律に整理すると、割戻しでずれます。

適用要件は「帳簿」

消費税法38条2項は、控除の適用要件をこう定めています。

2 前項の規定は、事業者が当該売上げに係る対価の返還等をした金額の明細を記録した帳簿を保存しない場合には、当該保存のない売上げに係る対価の返還等に係る消費税額については、適用しない。ただし、災害その他やむを得ない事情により当該保存をすることができなかつたことを当該事業者において証明した場合は、この限りでない。

必要なのは帳簿です。返還インボイス(適格返還請求書)の交付は、この項に控除の要件として書かれていません。交付義務は消費税法57条の4第3項が別に定めている規定です(→ [税込1万円未満の返品・値引きには、返還インボイスを交付しなくてよい](/articles/henkan-invoice-shogaku-menjo/))。

なお国税庁タックスアンサーNo.6359は、適格返還請求書に記載した消費税額等に基づき計算した金額を返還等に係る消費税額とする場合には、その適格返還請求書または電磁的記録を併せて保存する必要があると記載しています。

売上から直接差し引く経理処理をしている場合

返品を売上からその場で差し引いて記帳している事業者もいます。消費税法基本通達14-1-8が、この経理処理について定めています。

事業者が、その課税期間において売上げに係る対価の返還等(免税事業者であった課税期間において行った課税資産の譲渡等に係るものを除く。以下14-1-8において同じ。)を行った場合において、当該課税期間に国内において行った課税資産の譲渡等の税率の異なるごとの金額から当該売上げに係る対価の返還等につき税率の異なるごとに合理的に区分した金額をそれぞれ控除する経理処理を継続して行っているときは、これを認める。 (注) この場合、当該売上げに係る対価の返還等の金額については、別途法第38条第1項(中略)の規定の適用はないのであるが、同条第2項に規定する帳簿を保存する必要があることに留意する。

読み取れることが3つあります。

  • 継続して行っていることが条件として書かれています。
  • この処理を採ると、その返還等について別途消費税法38条1項の適用はないとされています。課税標準となる金額そのものが返還等の分だけ小さくなる形になります。
  • それでも帳簿の保存は要ると注が明記しています。

国税庁タックスアンサーNo.6359も、調整の方法として「課税資産の譲渡等の金額からその売上げに係る対価の返還等の金額を控除する経理処理を継続して行っているときは、この処理も認められます」と記載し、適用要件について「課税資産の譲渡等の金額からその売上げに係る対価の返還等の金額を控除する経理処理を行っている場合も同様です」と記載しています。

どちらの経理処理を採るかによって条文の当てはまり方が変わりますので、自社の処理については税理士または税務署にご確認ください。

軽減税率と10%が混ざっているとき

返還等に係る消費税額は、税込価額に 110分の7.8(軽減対象課税資産の譲渡等に係るものは 108分の6.24)を乗じて計算します(消費税法38条1項)。

内訳が分からない場合について、国税庁タックスアンサーNo.6359が計算方法を示しています。

(前略)売上げに係る対価の返還等の金額が課税資産の譲渡等(軽減対象課税資産の譲渡等に該当するものを除く。)に係る部分と軽減対象課税資産の譲渡等に係る部分とに合理的に区分されていないときは、その売上げに係る対価の返還等に係る税込価額に、その売上げに係る対価の返還等に係る課税資産の譲渡等の税込価額の合計額のうちに軽減対象課税資産の譲渡等の税込価額の占める割合を乗じて計算した金額を、その軽減対象課税資産の譲渡等に係る部分の金額として、計算します。

免税だったころの売上げの返品は、対象外

ここまでは、返還等が消費税法38条1項の対象になることを前提にしてきました。対象にならない場合があります。

消費税法基本通達14-1-6は、免税事業者であった課税期間において行った課税資産の譲渡等について、課税事業者となった課税期間において売上げに係る対価の返還等を行った場合には、その対価の返還等については消費税法38条1項の規定の適用はないことに留意する、としています。

インボイス登録で免税事業者から課税事業者になった年をまたぐ返品は、ここに当たります。詳しくは [免税だったころの売上げを返品されても、消費税は調整できない](/articles/menzei-jidai-uriage-henkan/) をご覧ください。

この記事のまとめ

  • 2割特例・3割特例が置き換えるのは消費税法30条から37条まで。消費税法38条・39条は残る。
  • 返品・値引きは、特別控除税額を計算するときの金額の減額と、控除項目の2か所に現れる。
  • 貸倒れは特別控除税額の計算には現れない。条文に書かれているのは消費税法38条1項だけ。
  • 調整するのは返還等をした日の属する課税期間。ただし売上割戻しは別のルール(消費税法基本通達14-1-9)。
  • 控除の適用要件は帳簿の保存(消費税法38条2項)。

金額の当てはめや申告書の記載については、税理士または税務署にご相談ください。

経営者の疑問と、制度の事実

答えるのは制度の事実だけです。有利・不利は事業ごとの事情で変わるため、判断は税理士・税務署にご確認ください。

経営者2割特例は売上に0.8を掛けるだけの簡単な計算だと聞いた。返品まで見る必要があるのか。

制度の事実平成28年改正法附則51条の2第2項は、特別控除税額を「当該課税期間の課税資産の譲渡等(中略)に係る課税標準である金額の合計額に対する消費税額から当該課税期間における新消費税法第三十八条第一項に規定する売上げに係る対価の返還等の金額に係る消費税額の合計額を控除した残額の百分の八十に相当する金額」と定めています。80%を乗じる相手の金額から、返還等に係る消費税額が控除される形で書かれています。さらに、同附則51条の2第1項が置き換えているのは消費税法30条から37条までであり、消費税法38条1項は置き換えられていないため、返還等の控除そのものも残ります。自社の申告書での計算については、税理士または税務署にご確認ください。

経営者去年売った商品が今年返品された。去年の申告をやり直すのか。

制度の事実消費税法38条1項は、控除するのは「当該売上げに係る対価の返還等をした日の属する課税期間の課税標準額に対する消費税額から」と定めています。国税庁タックスアンサーNo.6359も、当初の課税資産の譲渡等を行った課税期間ではなく、返還等を行った課税期間において調整を行うと記載しています。ただし、免税事業者であった課税期間に行った課税資産の譲渡等について課税事業者となった課税期間に返還等を行った場合には、消費税法基本通達14-1-6により消費税法38条1項の適用はないとされています。自社がどちらに当たるかは、税理士または税務署にご確認ください。

経営者うちは返品を売上からその場で差し引いて帳簿をつけている。それでも構わないのか。

制度の事実消費税法基本通達14-1-8は、課税期間中の課税資産の譲渡等の税率の異なるごとの金額から、売上げに係る対価の返還等につき税率の異なるごとに合理的に区分した金額をそれぞれ控除する経理処理を継続して行っているときは、これを認めると定めています。同通達の注は、この場合その返還等の金額については別途消費税法38条1項の適用はないが、同条2項に規定する帳簿を保存する必要があることに留意する、としています。国税庁タックスアンサーNo.6359も同じ内容を記載しています。なお同通達14-1-8の本文は、免税事業者であった課税期間において行った課税資産の譲渡等に係るものを括弧書きで除いています。自社の経理処理がこの取扱いに当たるかは、税理士または税務署にご確認ください。

よくある質問

2割特例を使っている年は、返品があっても関係ないのですか。
関係します。平成28年改正法附則51条の2第1項が置き換えているのは、消費税法30条から37条まで(仕入税額控除)だけです。売上げに係る対価の返還等の控除を定めた消費税法38条1項は置き換えの対象に入っていないため、そのまま適用されます。さらに同附則51条の2第2項は、特別控除税額を計算するときの金額からも売上げに係る対価の返還等の金額に係る消費税額を控除すると定めています。自社の申告書での書き方は、税理士または税務署にご確認ください。
返還等に係る消費税額はどう計算しますか。
消費税法38条1項は、返還した税込価額または減額した債権の額に110分の7.8(軽減対象課税資産の譲渡等に係るものは108分の6.24)を乗じて算出すると定めています。国税庁タックスアンサーNo.6359も同じ計算式を示しています。なお、交付した適格返還請求書の写し等を保存している場合には、その適格返還請求書に記載した消費税額等に100分の78を乗じる方法によることもできる旨が同No.6359に記載されています。どちらの方法によるかは、税理士または税務署にご確認ください。
貸倒れも同じように引くのですか。
条文の書き方が違います。平成28年改正法附則51条の2第2項が特別控除税額の計算で控除すると定めているのは、消費税法38条1項に規定する売上げに係る対価の返還等の金額に係る消費税額だけです。貸倒れに係る消費税額を定めた消費税法39条1項は、この項に出てきません。一方、消費税法39条1項そのものは附則51条の2第1項の置き換えの対象(消費税法30条から37条まで)に入っていないため、要件を満たせば適用されます。実際の申告での取扱いは、税理士または税務署にご確認ください。
いつの課税期間で調整するのですか。売った年ですか、返品された年ですか。
消費税法38条1項は「当該売上げに係る対価の返還等をした日の属する課税期間の課税標準額に対する消費税額から(中略)控除する」と定めています。国税庁タックスアンサーNo.6359も「当初の課税資産の譲渡等を行った課税期間でなく、売上げに係る対価の返還等を行った課税期間において調整を行います」と記載しています。ただし売上割戻しについては、消費税法基本通達14-1-9が別に日付のルールを置いています。個別の当てはめは、税理士または税務署にご確認ください。
帳簿には何を残せばよいですか。
消費税法38条2項は、売上げに係る対価の返還等をした金額の明細を記録した帳簿を保存しない場合には同条1項を適用しないと定めています。ただし同項ただし書により、災害その他やむを得ない事情によりその保存をすることができなかったことを事業者において証明した場合は、この限りでないとされています。国税庁タックスアンサーNo.6359は、課税資産の譲渡等の金額から返還等の金額を控除する経理処理を行っている場合も同様に帳簿の保存が必要であると記載しています。記録事項の詳細は消費税法施行令58条の2に定められています。自社の記帳方法については、税理士または税務署にご確認ください。
軽減税率の売上と10%の売上が混ざっていて、返品の内訳が分かりません。
国税庁タックスアンサーNo.6359は、返還等の金額が標準税率の部分と軽減対象課税資産の譲渡等に係る部分とに合理的に区分されていないときは、返還等に係る税込価額に、返還等に係る課税資産の譲渡等の税込価額の合計額のうち軽減対象課税資産の譲渡等の税込価額が占める割合を乗じて計算した金額を、軽減対象に係る部分の金額として計算すると記載しています。自社の区分の方法については、税理士または税務署にご確認ください。

個別の判断について

適用の可否や有利・不利は、事業区分・基準期間の課税売上高・過去の届出など個別の事情で変わります。実際の判断の前に、税理士等の専門家、または所轄の税務署にご相談ください。

出典(一次情報)

法令・国税庁・省庁など公的機関の公表資料のみを参照しています(解説記事等の二次情報は使用していません)。

本ページは公表されている制度情報にもとづく解説と試算の補助であり、税務に関する助言ではありません。個別の判断は必ず税理士等の専門家にご確認ください(所轄の税務署でも確認できます)。

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