令和8年度税制改正に対応

被災事業者のインボイス登録の取消しは、被災前に終了した課税期間には遡りません(国税庁は個人事業者の令和7年分を例に挙げています)

最終確認日: (数値は一次情報で照合)

結論から

租税特別措置法86条の5第13項は、被災事業者である適格請求書発行事業者(その課税期間に係る基準期間における課税売上高が1,000万円以下である者に限る)が、指定日までに消費税法57条の2第10項1号の規定による届出書を提出した場合には、その提出があつた日の翌日に登録がその効力を失うと定めています。効果の起点は「提出があつた日」であり、同項は続けて、その提出があつた日の属する課税期間に係る消費税法9条1項および15条6項の読替えを定めています。つまり、この特例が動かすのは届出書を提出した日とその日の属する課税期間であって、それより前に終了した課税期間ではありません。国税庁が令和8年熊本地震の被災事業者向けに公表している資料にも「この特例は、被災前に終了した課税期間について適用できません(例えば個人事業者の令和7年分について、インボイス発行事業者の登録を取り消すことはできません)」と記載されています。なお同条1項(課税事業者選択の側)には「被災日の属する課税期間以後の課税期間」という限定が条文そのものに置かれていますが、13項にはその文言がありません。自社がこの特例の対象に当たるか、どの課税期間から免税事業者となるかについては、税理士または税務署にご確認ください。

この記事の要点

  • 租税特別措置法86条の5第13項の効果は「その提出があつた日の翌日に、同条第一項の登録は、その効力を失う」である。起点は届出書を提出した日であって、被災した日でも、過去の課税期間でもない。
  • 同項は続けて「その提出があつた日の属する課税期間に係る」消費税法9条1項および15条6項の読替えを定めている。読替えの対象として条文が名指ししている課税期間は、提出があつた日の属する課税期間の1つだけである。
  • 国税庁は令和8年熊本地震の被災事業者向け資料に「この特例は、被災前に終了した課税期間について適用できません(例えば個人事業者の令和7年分について、インボイス発行事業者の登録を取り消すことはできません)」と記載している。
  • 個人事業者の課税期間は暦年である(消費税法19条1項1号)。令和8年中に届出書を提出する場合、令和7年分はその時点で既に終了している。
  • 同条1項(課税事業者選択届出書の側)には「被災日の属する課税期間以後の課税期間につき」という限定が条文に書かれている。13項にはその文言がなく、代わりに効果が提出日に係留されている。
  • 13項の適用対象は、その課税期間に係る基準期間における課税売上高が1,000万円以下である者に限られる(同項の括弧書き)。
  • 平時の取消し(消費税法57条の2第10項1号)では、登録が効力を失うのは提出があつた日の属する課税期間の末日の翌日である。被災事業者の特例では提出があつた日の翌日であり、課税期間の途中で効力を失う点が異なる。
  • 令和8年熊本地震の「指定日」の前提となる指定期日は、2026年10月10日に国税庁の告示一覧を確認した時点でも掲載されていない。

被災したあとでインボイス発行事業者の登録をやめるとき、「どこまで遡れるのか」は分かりにくいところです。

結論から書きます。この特例が動かすのは、届出書を提出した日と、その日の属する課税期間です。それより前に終わった課税期間には届きません。

国税庁の資料に、その1行が入っています

国税庁が令和8年熊本地震の被災事業者向けに公表している1ページの資料(インボイス制度関係の抜粋)に、次の注記があります。

※ この特例は、被災前に終了した課税期間について適用できません(例えば個人事業者の令和7年分について、インボイス発行事業者の登録を取り消すことはできません)。

個人事業者の課税期間は暦年です(消費税法19条1項1号)。令和8年中に届出書を提出する場合、令和7年分はその時点ですでに終わっています。だから取り消せない、という例示です。

条文の効果は「提出があつた日」から始まっています

根拠条文は租税特別措置法86条の5第13項です。前半はこう定めています。

被災事業者である適格請求書発行事業者(消費税法第二条第一項第七号の二に規定する適格請求書発行事業者をいい、その課税期間に係る同法第九条第一項に規定する基準期間における課税売上高が千万円以下である者に限る。以下この項及び次項において同じ。)が、指定日までに同法第五十七条の二第十項第一号の規定による届出書をその納税地を所轄する税務署長に提出した場合には、その提出があつた日の翌日に、同条第一項の登録は、その効力を失う。

登録が効力を失うのは「その提出があつた日の翌日」です。被災した日ではありません。

同じ項の後半は、読替えの対象をこう書いています。

この場合において、当該適格請求書発行事業者のその提出があつた日の属する課税期間に係る同法第九条第一項及び第十五条第六項の規定の適用については、

条文が名指ししている課税期間は「その提出があつた日の属する課税期間」の1つだけです。過去の課税期間を指す言葉は、この項のどこにも出てきません。

1項には「被災日の属する課税期間以後」と書かれています

同じ条文の1項(消費税法9条4項の課税事業者選択に関する部分)を見ると、時間の限定が条文そのものに置かれています。

(前略)被災日(事業者が被災事業者となつた日をいう。以下この条において同じ。)の属する課税期間以後の課税期間につき消費税法第九条第四項の規定の適用を受けようとする者が、同項の規定による届出書を(後略)

1項は「被災日の属する課税期間以後」と正面から書き、13項は書いていません。書き方が違うのは、限定のかけ方が違うからです。13項では、効果そのものが提出日に結びつけられています。

項時間の限定効果の起点
1項(課税事業者選択)条文に「被災日の属する課税期間以後の課税期間につき」と明記適用を受けようとする課税期間の初日の前日に提出したものとみなす
13項(登録の取消し)そのような限定の文言はないその提出があつた日の翌日に登録が効力を失う

国税庁の注記は、条文を読めばたどり着く帰結を、先に1行で書いたものと読むことができます。

平時の取消しとは、効力を失う日が違います

平時にインボイス発行事業者の登録をやめる場合の根拠は、消費税法57条の2第10項1号です。この場合に登録が効力を失うのは、その提出があつた日の属する課税期間の末日の翌日とされています(その提出が政令で定める日の翌日からその課税期間の末日までの間にされたときは、その課税期間の翌課税期間の末日の翌日)。

  • 平時 — 課税期間の区切りで切り替わる
  • 被災事業者の特例 — 提出した日の翌日に切り替わる(課税期間の途中)

平時の手続と期日の数え方は、別の記事にまとめています(→ [インボイス登録の取消手順(15日前の日までの届出)](/articles/invoice-cancel/))。

使えるのは、基準期間における課税売上高が1,000万円以下の事業者です

13項は、対象となる適格請求書発行事業者を括弧書きでこう限定しています。

その課税期間に係る同法第九条第一項に規定する基準期間における課税売上高が千万円以下である者に限る。

この限定は13項の中にあります。同条の他の項(課税事業者選択や簡易課税の届出に関する部分)には、この売上の限定はありません。基準期間における課税売上高の計算そのものは消費税法9条2項の定めによります(→ [1,000万円の判定では返品も引きます](/articles/kijun-kikan-henkan-hikikata/))。

「指定日」は、まだ決まっていません

13項は「指定日までに」提出することを求めています。その指定日は、租税特別措置法86条の5第1項で「国税庁長官が(中略)別に定める日」とされています。

令和8年熊本地震については、国税庁告示第22号(令和8年8月12日)が出ていますが、この告示に日付は書かれていません。事業者の区分ごとに「別途国税庁告示で定める期日」「税務署長が指定した日」「指定期日を勘案して別途国税庁告示で定める日」と定義されているだけです。

その「別途の告示」は、2026年10月10日に国税庁の告示一覧を確認した時点でも掲載されていません。一覧の最新は国税庁告示第24号(令和8年10月1日)で、果実酒等の製法品質表示基準に関するものです。

指定日と先例の数え方は、別の記事で詳しく扱っています(→ [特定非常災害の被災事業者には、消費税の届出等の特例があります](/articles/tokutei-hijo-saigai-todokede-tokurei/))。

この記事のまとめ

  • 租税特別措置法86条の5第13項の効果は「その提出があつた日の翌日に、同条第一項の登録は、その効力を失う」である。
  • 同項の読替えの対象は「その提出があつた日の属する課税期間」の1つだけで、過去の課税期間を指す言葉はない。
  • 国税庁の資料は「この特例は、被災前に終了した課税期間について適用できません」と記載し、個人事業者の令和7年分を例に挙げている。
  • 同条1項には「被災日の属する課税期間以後の課税期間につき」という限定が条文に置かれているが、13項にはその文言がない。
  • 13項の対象は、その課税期間に係る基準期間における課税売上高が1,000万円以下である者に限られる。
  • 平時の取消し(消費税法57条の2第10項1号)では、効力を失うのは課税期間の末日の翌日である。
  • 令和8年熊本地震の指定期日は、2026年10月10日時点で公表されていない。

被災事業者に当たるかどうか、どの届出書をいつ提出することになるか、そしてどの課税期間から免税事業者となるかは、事業者ごとの事情と納税地によって変わります。具体的な当てはめについては、税理士または税務署にご相談ください。

経営者の疑問と、制度の事実

答えるのは制度の事実だけです。有利・不利は事業ごとの事情で変わるため、判断は税理士・税務署にご確認ください。

経営者地震で店が被災した。インボイスの登録を取り消せると聞いたが、去年の消費税も免税になるのか。

制度の事実租税特別措置法86条の5第13項は、指定日までに登録の取消しを求める旨の届出書を提出した場合、その提出があつた日の翌日に登録が効力を失うと定めています。あわせて、その提出があつた日の属する課税期間について消費税法9条1項と15条6項の読替えを行うとしています。条文が名指ししているのは、提出があつた日と、その日の属する課税期間です。国税庁の資料にも、この特例は被災前に終了した課税期間については適用できないと記載されています。御社の過去の課税期間の申告や納税の取扱いについては、税理士または税務署にご確認ください。

経営者では、いつ届出書を出すかで結果が変わるということか。

制度の事実条文上、登録が効力を失う日は「その提出があつた日の翌日」とされており、読替えの対象も「その提出があつた日の属する課税期間」です。したがって、どの課税期間が読替えの対象になるかは提出した日によって決まります。ただし、提出の期限にあたる「指定日」は国税庁長官が別に定める日とされ、令和8年熊本地震についてはその前提となる指定期日がまだ告示されていません。どの時点で何を提出することになるか、またそれが御社にとってどういう結果になるかについては、税理士または税務署にご確認ください。

経営者法人なら決算月の関係で話が違ってくるのか。

制度の事実国税庁の資料は、3月決算法人が指定日までに届出書を提出した場合には令和9年3月期の初日から免税事業者となることができる、という例を挙げています。ただしこの例は、指定日が令和9年3月末までに到来する場合を前提としたものです。指定日がいつになるかは告示が出るまで分かりません。個人事業者の課税期間は暦年です(消費税法19条1項1号)。課税期間の区切りが事業者ごとに異なるため、同じ日に提出しても対象となる課税期間は同じにはなりません。御社の事業年度での当てはめについては、税理士または税務署にご確認ください。

よくある質問

被災したので、去年の分まで遡ってインボイス登録をなかったことにできますか。
租税特別措置法86条の5第13項の効果は「その提出があつた日の翌日に、同条第一項の登録は、その効力を失う」と定められており、起点は届出書を提出した日です。国税庁が令和8年熊本地震の被災事業者向けに公表している資料にも「この特例は、被災前に終了した課税期間について適用できません(例えば個人事業者の令和7年分について、インボイス発行事業者の登録を取り消すことはできません)」と記載されています。個人事業者の課税期間は暦年ですので(消費税法19条1項1号)、令和8年中に提出する届出書で令和7年分が動くという組み立てにはなっていません。自社の課税期間と提出時期については、税理士または税務署にご確認ください。
条文には「被災前の課税期間には適用しない」と書いてあるのですか。
租税特別措置法86条の5第13項に、そのような否定の文言は置かれていません。代わりに、効果の側が「その提出があつた日の翌日に」登録が効力を失うと定められ、続く読替えの対象も「その提出があつた日の属する課税期間に係る」ものとされています。なお、同条1項(消費税法9条4項の課税事業者選択の側)には「被災日の属する課税期間以後の課税期間につき」という限定が条文そのものに置かれています。13項の国税庁の説明は、条文を読めば導かれる帰結を先に書いたものと読むことができます。個別の当てはめについては、税理士または税務署にご確認ください。
平時にインボイス登録をやめる場合と、どこが違うのですか。
平時の取扱いは消費税法57条の2第10項1号によるもので、登録が効力を失うのはその提出があつた日の属する課税期間の末日の翌日です(その提出が政令で定める日の翌日からその課税期間の末日までの間にされた場合には、その課税期間の翌課税期間の末日の翌日とされています)。租税特別措置法86条の5第13項では、効力を失うのはその提出があつた日の翌日です。課税期間の区切りで切り替わるか、提出した日の翌日に切り替わるかという点で、条文の定め方が異なります。どちらの条文が自社に当たるかについては、税理士または税務署にご確認ください。
この特例を使える事業者に、売上の条件はありますか。
租税特別措置法86条の5第13項は、対象となる適格請求書発行事業者を「その課税期間に係る同法第九条第一項に規定する基準期間における課税売上高が千万円以下である者に限る」と括弧書きで限定しています。基準期間における課税売上高そのものの計算方法は消費税法9条2項に定めがあります。自社がこの限定に当たるかどうかの判定については、税理士または税務署にご確認ください。
令和8年熊本地震の「指定日」はもう決まりましたか。
2026年10月10日に国税庁の告示一覧を確認した時点では、令和8年熊本地震に係る指定期日を定めた告示は掲載されていません。一覧の最新は国税庁告示第24号(令和8年10月1日・果実酒等の製法品質表示基準に関するもの)で、租税特別措置法86条の5に係るものでも申告期限等の指定に係るものでもありません。国税庁告示第22号(令和8年8月12日)は、指定日を事業者の区分ごとに定義しているだけで、日付そのものは別途の告示に委ねる書き方です。最新の状況は国税庁のウェブサイトでご確認いただくか、税務署にご確認ください。

個別の判断について

適用の可否や有利・不利は、事業区分・基準期間の課税売上高・過去の届出など個別の事情で変わります。実際の判断の前に、税理士等の専門家、または所轄の税務署にご相談ください。

出典(一次情報)

法令・国税庁・省庁など公的機関の公表資料のみを参照しています(解説記事等の二次情報は使用していません)。

本ページは公表されている制度情報にもとづく解説と試算の補助であり、税務に関する助言ではありません。個別の判断は必ず税理士等の専門家にご確認ください(所轄の税務署でも確認できます)。

当サイトはアフィリエイトプログラムを利用しており、広告を含みます(ページ上部に「PR」と表示しています)。