令和8年度税制改正に対応

免税だったころの売上げを返品されても、消費税は調整できない(売上側と仕入側で扱いが逆)

最終確認日: (数値は一次情報で照合)

結論から

免税事業者であった課税期間に売った商品について、課税事業者になった後で返品を受けたり値引きをしたりしても、その返還等について消費税法38条1項による控除を受けることはできません。消費税法基本通達14-1-6が「法第38条第1項(中略)の規定の適用はないことに留意する」と定めており、国税庁タックスアンサーNo.6359も「調整を行うことができない取引」として同じ内容を挙げています。逆向きも同じで、課税事業者であった課税期間の売上げについて、事業を廃止したり免税事業者になったりした後で返還等を行った場合も適用はありません(同通達14-1-7)。注意が要るのは、仕入側の扱いが正反対である点です。免税事業者からの仕入れに係る経過措置については、平成28年改正法附則52条4項・53条4項が、返還等を受けたときは元の課税仕入れに適用された割合で調整すると定めています。なお、納税義務の判定に用いる基準期間における課税売上高の計算では、基準期間が免税事業者であった場合の返還等は、同通達14-1-6のなお書きにより税込みの金額のまま控除されます。個別の当てはめは、税理士または税務署にご確認ください。

この記事の要点

  • 免税事業者であった課税期間の売上げについて、課税事業者になってから返品・値引きをしても、消費税法38条1項の控除は受けられない(消費税法基本通達14-1-6)。
  • 課税事業者であった課税期間の売上げについて、廃業後または免税事業者になった後に返還等を行った場合も適用はない(同14-1-7)。
  • 国税庁タックスアンサーNo.6359は、この2つを「調整を行うことができない取引」として明記している。
  • 仕入側は扱いが正反対で、経過措置の対象だった課税仕入れの返還等は元の課税仕入れの割合で調整する(平成28年改正法附則52条4項・53条4項)。
  • 調整する課税期間の決め方も向きが違う。売上側は返還等を「した」日、仕入側は返還等を「受けた」日である。
  • 納税義務の判定では、基準期間が免税事業者であった場合の返還等は78分の100を乗じる金額がないものとして扱われる(同通達14-1-6のなお書き)。
  • 特定資産の譲渡等に係る対価の返還等も、消費税法38条の適用対象外である(同通達14-1-8の2)。
  • 売上から返還等を直接差し引く経理処理を認める同通達14-1-8も、免税事業者であった課税期間の譲渡等に係るものを除いている。

通達が2つ、正面から否定している

売上げに係る対価の返還等の控除(消費税法38条1項)には、適用されない場合があります。消費税法基本通達が2つ並べています。

免税事業者だったころの売上げを、課税事業者になってから返した場合(14-1-6)

免税事業者であった課税期間において行った課税資産の譲渡等について、課税事業者となった課税期間において売上げに係る対価の返還等を行った場合には、当該対価の返還等については法第38条第1項(中略)の規定の適用はないことに留意する。

課税事業者だったころの売上げを、廃業後や免税事業者になった後に返した場合(14-1-7)

課税事業者が事業を廃止し、又は免税事業者となった後において、課税事業者であった課税期間における課税資産の譲渡等につき、売上げに係る対価の返還等を行った場合には、その返還等の金額に係る消費税額について、法第38条第1項(中略)の規定は適用されないのであるから留意する。

国税庁タックスアンサーNo.6359も、この2つを 「調整を行うことができない取引」 として明記しています。

(1) 免税事業者であった課税期間における課税資産の譲渡等につき、課税事業者となった後の課税期間において行ったもの (2) 課税事業者であった課税期間における課税資産の譲渡等につき、事業を廃止し、または免税事業者となった後の課税期間において行ったもの

分かれ目は、元の課税資産の譲渡等を行った課税期間に免税事業者であったかどうかです。14-1-6は「免税事業者であった課税期間において行った課税資産の譲渡等について」と書いており、返還等をした時点ではなく、売った側の課税期間を基準にしています。

インボイス登録で免税事業者から課税事業者に移った事業者は、この境目を通過しています。登録前に売った商品の返品が登録後に来れば、14-1-6の場面です。

仕入側は、扱いが正反対

同じ「返品」でも、仕入側は条文の作りが違います。

免税事業者からの課税仕入れについて一定割合の控除を認める経過措置は、平成28年改正法附則52条・53条に置かれています。その第4項が、返還等があった場合の読替えを定めています。

附則52条4項(元の課税仕入れが80%の期間のもの)

事業者が、第一項の規定の適用を受ける控除対象課税仕入れを行った場合における新消費税法第三十二条(中略)の規定の適用については、新消費税法第三十二条第一項第一号中「金額及び」とあるのは「金額(当該仕入れに係る対価の返還等が(中略)控除対象課税仕入れに係るものである場合には、当該金額に百分の八十を乗じて算出した金額)及び」(後略)

附則53条4項も同じ形で、こちらは「当該控除対象課税仕入れに係る同項各号に掲げる控除対象課税仕入れの区分に応じ当該各号に定める割合を乗じて算出した金額」としています。

売上側は控除そのものが落ちるのに対し、仕入側は元の課税仕入れの割合に遡って調整する形で書かれています。

売上側仕入側
根拠消費税法38条1項/基本通達14-1-6・14-1-7消費税法32条1項/平成28年改正法附則52条4項・53条4項
免税との境目をまたぐ返還等適用なし元の課税仕入れの割合で調整する
調整する課税期間返還等をした日の属する課税期間返還等を受けた日の属する課税期間

「返品したのだから、売上側も仕入側も同じように処理する」と整理すると、条文の形からずれます。主語も違います。売上側は自社が返還等をした日、仕入側は自社が返還等を受けた日です。

1,000万円の判定では、返品も「税込のまま」引く

もう1か所、免税事業者であった期間が効いてくるところがあります。納税義務の判定です。

消費税法9条2項1号は、基準期間における課税売上高を次のように定めています。

一 個人事業者及び基準期間が一年である法人 基準期間中に国内において行つた課税資産の譲渡等の対価の額(中略)の合計額から、イに掲げる金額からロに掲げる金額を控除した金額の合計額(中略)を控除した残額 イ 基準期間中に行つた第三十八条第一項に規定する売上げに係る対価の返還等の金額 ロ 基準期間中に行つた第三十八条第一項に規定する売上げに係る対価の返還等の金額に係る消費税額に七十八分の百を乗じて算出した金額

引くのは イ − ロ、つまり税抜相当額です。ところが基準期間が免税事業者であった場合には、14-1-6のなお書きが働きます。

なお、この場合の法第9条第2項第1号(中略)、令第48条第1項第2号(中略)又は第53条第3項第2号(中略)の規定の適用に当たっては、これらの各号に規定する消費税額に78分の100を乗じて算出した金額はないことに留意する。

ロがないものとして扱われます。その結果、イ(税込みの返還額)がそのまま引かれる形になります。

売上のほうを税込みで積み上げる以上、返品も税込みで引く、という並びになっています。基準期間が免税事業者であった場合の課税売上高を税込みで計算することについては、消費税法基本通達1-4-5が定めています(→ [基準期間と特定期間とは何か](/articles/kijun-kikan-tokutei-kikan/))。

基準期間が課税事業者だったか免税事業者だったかで、引き方が変わります。判定に返品の多い事業を営んでいる場合は、ここが結果を動かします。

そのほかに適用がない場合

同じ第1款には、もう1つ適用のない場合が置かれています。

特定資産の譲渡等に係る対価の返還等(14-1-8の2)

特定資産の譲渡等は法第38条(中略)における「課税資産の譲渡等」に含まれないことから、特定資産の譲渡等に係る対価の返還等を行ったとしても、同条の規定の適用はないことに留意する。

また、売上から返還等を直接差し引く経理処理を認める 14-1-8 も、その対象から「免税事業者であった課税期間において行った課税資産の譲渡等に係るものを除く」と括弧書きで明記しています。経理処理を変えても、この境目は動きません。

この記事のまとめ

  • 免税だった課税期間の売上げについての返品・値引きは、課税事業者になってからでも消費税法38条1項の控除の対象外(基本通達14-1-6)。
  • 課税事業者だった課税期間の売上げについての返還等も、廃業後・免税事業者になった後は対象外(同14-1-7)。
  • 仕入側は正反対で、経過措置の対象だった課税仕入れは元の割合で調整する(平成28年改正法附則52条4項・53条4項)。
  • 調整する課税期間の主語も違う。売上側は返還等をした日、仕入側は返還等を受けた日。
  • 納税義務の判定では、基準期間が免税事業者であれば返還等を税込みのまま引く(同通達14-1-6のなお書き)。

2割特例・3割特例を使う課税期間の計算に返還等がどう入るかは、[返品・値引きは2割特例・3割特例の計算に2か所で入る](/articles/henkan-2wari-3wari-keisan/) をご覧ください。

自社の取引がどの場合に当たるかについては、税理士または税務署にご相談ください。

経営者の疑問と、制度の事実

答えるのは制度の事実だけです。有利・不利は事業ごとの事情で変わるため、判断は税理士・税務署にご確認ください。

経営者免税のころに売った商品を返品された。売上を返したのだから、消費税も減るのが筋ではないのか。

制度の事実消費税法基本通達14-1-6は、免税事業者であった課税期間において行った課税資産の譲渡等について、課税事業者となった課税期間において売上げに係る対価の返還等を行った場合には、その対価の返還等については消費税法38条1項の規定の適用はないことに留意する、と定めています。国税庁タックスアンサーNo.6359も、調整を行うことができない取引の1つとして同じ場合を挙げています。もともとその売上げについて消費税を納めていないため、という理由づけは通達に書かれておらず、通達が定めているのは適用の有無です。返金の要否そのものは商取引の問題として別に決まります。自社の取引の取扱いは、税理士または税務署にご確認ください。

経営者インボイス登録で令和5年10月から課税事業者になった。9月以前に売ったものの返品は、どちらの扱いか。

制度の事実分かれ目は、その課税資産の譲渡等を行った課税期間に免税事業者であったかどうかです。消費税法基本通達14-1-6は「免税事業者であった課税期間において行った課税資産の譲渡等について」と書いており、返還等を行った時点ではなく、元の譲渡等を行った課税期間を基準にしています。なお、課税期間の途中で登録を受けた場合について、平成28年改正法附則44条4項は、登録開始日の属する課税期間のうち登録開始日からその課税期間の末日までの間における課税資産の譲渡等及び特定課税仕入れについては消費税法9条1項本文(免税)の規定を適用しない、と定めています。同じ課税期間の中に、免税事業者であった部分と課税事業者である部分が並ぶ形です。個々の取引がどの課税期間の譲渡等に当たるかの判断は、税理士または税務署にご確認ください。

経営者うちは免税事業者から仕入れた分も返品している。売上側と同じように諦めるのか。

制度の事実仕入側は別の条文で定められています。平成28年改正法附則52条4項は、同条1項の適用を受ける控除対象課税仕入れについて仕入れに係る対価の返還等があった場合の消費税法32条1項1号の読替えを定め、その金額に100分の80を乗じて算出した金額によることとしています。附則53条4項も同じ形で、こちらは同条1項各号に掲げる控除対象課税仕入れの区分に応じた割合によるとしています。売上側の通達が控除の適用自体を否定しているのに対し、仕入側は元の課税仕入れの割合に応じて調整する形で書かれています。自社の処理については、税理士または税務署にご確認ください。

よくある質問

免税事業者のときに売った商品が返品されました。消費税は戻りますか。
消費税法基本通達14-1-6は「免税事業者であった課税期間において行った課税資産の譲渡等について、課税事業者となった課税期間において売上げに係る対価の返還等を行った場合には、当該対価の返還等については法第38条第1項(中略)の規定の適用はないことに留意する」と定めています。国税庁タックスアンサーNo.6359も、調整を行うことができない取引として同じ場合を挙げています。返金そのものを行うかどうかは商取引の問題であり、この通達が定めているのは消費税額の調整の可否です。自社の取引がこれに当たるかは、税理士または税務署にご確認ください。
逆に、課税事業者をやめた後で返品を受けた場合はどうなりますか。
消費税法基本通達14-1-7は「課税事業者が事業を廃止し、又は免税事業者となった後において、課税事業者であった課税期間における課税資産の譲渡等につき、売上げに係る対価の返還等を行った場合には、その返還等の金額に係る消費税額について、法第38条第1項(中略)の規定は適用されないのであるから留意する」と定めています。国税庁タックスアンサーNo.6359も同じ内容を記載しています。個別の当てはめは、税理士または税務署にご確認ください。
仕入れのほうも同じように調整できなくなるのですか。
条文の定め方が異なります。免税事業者からの課税仕入れについて一定割合の控除を認める経過措置は平成28年改正法附則52条・53条に置かれており、同各条の第4項が、その課税仕入れについて仕入れに係る対価の返還等を受けた場合には、元の控除対象課税仕入れの区分に応じた割合を乗じて算出した金額によることとする読替えを定めています。売上側の消費税法基本通達14-1-6・14-1-7は控除の適用そのものを否定していますが、仕入側は元の割合に遡って調整する形で書かれています。自社の取引がどちらに当たるかは、税理士または税務署にご確認ください。
調整する年は、売上側と仕入側で同じですか。
どちらも返還等があった課税期間ですが、主語が違います。消費税法38条1項は「当該売上げに係る対価の返還等をした日の属する課税期間」と定めています。消費税法32条1項は「当該仕入れに係る対価の返還等を受けた日の属する課税期間」と定めています。売上側は自社が返還等をした日、仕入側は自社が返還等を受けた日です。なお、仕入側で乗じる割合は返還等を受けた日ではなく元の課税仕入れを行った日の区分で決まります(平成28年改正法附則52条4項・53条4項)。実際の申告での取扱いは、税理士または税務署にご確認ください。
1,000万円の判定をするとき、免税だった年の返品はどう引きますか。
消費税法9条2項1号は、基準期間における課税売上高を、課税資産の譲渡等の対価の額の合計額から「イに掲げる金額からロに掲げる金額を控除した金額の合計額」を控除した残額と定めています。イは返還等の金額、ロは返還等の金額に係る消費税額に78分の100を乗じて算出した金額です。消費税法基本通達14-1-6のなお書きは、免税事業者であった課税期間について「これらの各号に規定する消費税額に78分の100を乗じて算出した金額はないことに留意する」としています。つまりロがないものとして扱われ、イがそのまま控除される形になります。自社の判定については、税理士または税務署にご確認ください。
この通達は最近変わったものですか。
消費税法基本通達14-1-6の末尾には改正の履歴として「(平9課消2-5、平25課消1-34、令元課消2-18により改正)」と付されています。14-1-7には改正の記載がありません。国税庁タックスアンサーNo.6359は[令和7年4月1日現在法令等]と表示されており、根拠法令等として消法38、57の4、消令58、58の2、70の9、消基通14-1-1〜4、14-1-6〜8を挙げています(いずれも2026年8月30日に確認)。最新の取扱いについては、税理士または税務署にご確認ください。

個別の判断について

適用の可否や有利・不利は、事業区分・基準期間の課税売上高・過去の届出など個別の事情で変わります。実際の判断の前に、税理士等の専門家、または所轄の税務署にご相談ください。

出典(一次情報)

法令・国税庁・省庁など公的機関の公表資料のみを参照しています(解説記事等の二次情報は使用していません)。

本ページは公表されている制度情報にもとづく解説と試算の補助であり、税務に関する助言ではありません。個別の判断は必ず税理士等の専門家にご確認ください(所轄の税務署でも確認できます)。

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