令和8年度税制改正に対応

災害で帳簿やインボイスを保存できなかったときの定めがあります(消費税法30条7項ただし書と、その意義を書いた通達)

最終確認日: (数値は一次情報で照合)

結論から

消費税法30条7項の本文は、事業者が課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等を保存しない場合には、その保存がない課税仕入れ等の税額について仕入税額控除の規定を適用しない、と定めています。同項にはただし書があり、「ただし、災害その他やむを得ない事情により、当該保存をすることができなかつたことを当該事業者において証明した場合は、この限りでない」と書かれています。同条11項(金または白金の地金の課税仕入れに係る本人確認書類の保存)にも同じ文言のただし書があります。この「災害その他やむを得ない事情」の意義については、消費税法基本通達11-2-22が「8-1-4による」としており、定義そのものは仕入税額控除の章ではなく、輸出物品販売場の章にある8-1-4に置かれています。8-1-4は「災害」を震災、風水害、雪害、凍害、落雷、雪崩、がけ崩れ、地滑り、火山の噴火等の天災または火災その他の人為的災害で自己の責任によらないものに基因する災害とし、「やむを得ない事情」を前号に規定する災害に準ずるような状況または当該事業者の責めに帰することができない状況にある事態としています。なお条文は「当該事業者において証明した場合」と定めており、証明は事業者の側が行うものとして書かれています。自社の事情がこのただし書に当たるかどうかの判断は、税理士または税務署にご確認ください。

この記事の要点

  • 消費税法30条7項の本文は、帳簿及び請求書等を保存しない場合には、その保存がない課税仕入れ等の税額について1項(仕入税額控除)を適用しない、と定めている。
  • 同項にはただし書がある。「ただし、災害その他やむを得ない事情により、当該保存をすることができなかつたことを当該事業者において証明した場合は、この限りでない」。
  • 同条11項(金または白金の地金の課税仕入れの相手方の本人確認書類)のただし書も、まったく同じ文言である。
  • この規定は特定非常災害の制度とは別である。30条7項ただし書は「災害その他やむを得ない事情」としか書いておらず、特定非常災害の指定・地域の指定・指定日を要件として挙げていない。
  • 「災害その他やむを得ない事情」の意義は、仕入税額控除の章には書かれていない。消費税法基本通達11-2-22(災害その他やむを得ない事情の意義)が「8-1-4による」と参照しており、定義の実体は第8章(輸出物品販売場=免税店)の8-1-4にある。
  • 8-1-4(災害その他やむを得ない事情の範囲)は2号構成である。(1)「災害」=震災、風水害、雪害、凍害、落雷、雪崩、がけ崩れ、地滑り、火山の噴火等の天災または火災その他の人為的災害で自己の責任によらないものに基因する災害。(2)「やむを得ない事情」=前号に規定する災害に準ずるような状況または当該事業者の責めに帰することができない状況にある事態。
  • 消費税法基本通達11-2-23(費途不明の交際費等)は、帳簿及び請求書等を保存しない場合に30条1項を適用できない旨を述べるにあたり、括弧書きで「法第30条第7項ただし書《災害等により保存できなかった場合》に該当する場合を除く。」と明記している。
  • 国税庁が令和8年熊本地震について公表したリーフレットは、この扱いにあたる場合として2つを挙げている。被災により消費税の課税仕入れに係る帳簿書類を消失した場合と、売手であるインボイス発行事業者が被災したことでインボイスの交付を行うことができず、取引先(買手)においてそのインボイスを保存することができなかった場合である。
  • 条文の文言は「当該事業者において証明した場合」である。保存できなかったことを証明する側として書かれているのは、控除を受けようとする事業者の側である。

原則は「保存がなければ引けない」です

消費税の仕入税額控除は、帳簿と請求書等を保存していることが前提になっています。

消費税法30条7項の本文です。

第一項の規定は、事業者が当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等(請求書等の交付を受けることが困難である場合、特定課税仕入れに係るものである場合その他の政令で定める場合における当該課税仕入れ等の税額については、帳簿)を保存しない場合には、当該保存がない課税仕入れ、特定課税仕入れ又は課税貨物に係る課税仕入れ等の税額については、適用しない。

(e-Gov 法令検索・消費税法・2026年10月1日施行版。2026年9月27日に取得。原文ママ)

ここまでが、よく知られている部分です。

同じ項に、ただし書が置かれています

条文は、そこで終わっていません。同じ7項の続きに、次のただし書があります。

ただし、災害その他やむを得ない事情により、当該保存をすることができなかつたことを当該事業者において証明した場合は、この限りでない。

(出典・取得日は同上。原文ママ)

「この限りでない」とは、直前の「適用しない」が働かない、という意味です。

同じ文言のただし書は、30条11項にもあります。こちらは金または白金の地金の課税仕入れについて、相手方の本人確認書類を保存しない場合の規定です。

特定非常災害の制度とは、条文が別です

ここは混ざりやすいところです。

大きな災害が起きると、国税庁は「特定非常災害の被災事業者について、届出書の提出期限を指定日まで延ばす」という案内を出します。これは租税特別措置法86条の5の制度です。

一方、いま見ている30条7項ただし書は、条文に「災害その他やむを得ない事情」としか書かれていません。

  • 特定非常災害の指定は、要件として書かれていません
  • 対象となる地域の指定も、書かれていません
  • 指定日も出てきません

国税庁のリーフレットは、届出書の特例とこのただし書を同じ紙に載せています。そのため1つの制度のように見えますが、根拠となる条文が違います。

「災害その他やむを得ない事情」の中身は、別の章にあります

では、その「災害その他やむを得ない事情」とは何を指すのか。

仕入税額控除の章を読んでも、定義は書かれていません。書かれているのは、次の1行だけです。

(災害その他やむを得ない事情の意義) 11-2-22 法第30条第7項ただし書《災害その他やむを得ない事情により帳簿等を保存しなかった場合》及び同条第11項ただし書《災害その他やむを得ない事情により本人確認書類を保存しなかった場合》に規定する「災害その他やむを得ない事情」の意義については8-1-4による。(平31課消2-9、令2課消2-9により改正)

(国税庁・消費税法基本通達 第11章第2節。2026年9月27日に取得。原文ママ)

参照先の 8-1-4 は、第8章にあります。第8章は輸出物品販売場、つまり免税店の章です。

(災害その他やむを得ない事情の範囲) 8-1-4 法第8条第2項ただし書《輸出物品販売場免税の不適用の規定を適用しない場合等》に規定する「災害その他やむを得ない事情」の意義は、次の各号に掲げるところによる。(令2課消2-9により改正) (1) 「災害」とは、震災、風水害、雪害、凍害、落雷、雪崩、がけ崩れ、地滑り、火山の噴火等の天災又は火災その他の人為的災害で自己の責任によらないものに基因する災害をいう。 (2) 「やむを得ない事情」とは、前号に規定する災害に準ずるような状況又は当該事業者の責めに帰することができない状況にある事態をいう。

(国税庁・消費税法基本通達 第8章第1節。2026年9月27日に取得。原文ママ)

(1) と (2) は「又は」で並んでいます。(2) は、(1) の「災害」そのものではない場合を受ける形で書かれています。

「保存がなければ引けない」の通達も、ただし書を外しています

原則の側を書いた通達にも、このただし書が顔を出します。

11-2-23(費途不明の交際費等)です。見出しは交際費の話ですが、書き出しは原則そのものです。

11-2-23 事業者が当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等を保存しない場合(法第30条第7項ただし書《災害等により保存できなかった場合》に該当する場合を除く。)には、その保存がない課税仕入れ等の税額について法第30条第1項《仕入れに係る消費税額の控除》の規定を適用することができないのであるから、例えば、課税仕入れに関する記録がない場合のほか、事業者が交際費、機密費等の名義をもって支出した金額でその費途が明らかでないものについても同項の規定の適用を受けることができないのであるから留意する。(平9課消2-5により改正)

(国税庁・消費税法基本通達 第11章第2節。2026年9月27日に取得。原文ママ)

括弧書きで、ただし書に当たる場合が明示的に除かれています。原則を述べる通達の側が、わざわざこの除外を書いている形です。

国税庁が挙げている2つの場合

令和8年熊本地震について国税庁が公表したリーフレットは、このただし書にあたる場合として2つを挙げています。

また、仕入税額控除に関して次に掲げる場合のように、災害(やむを得ない事情)により帳簿書類(適格請求書(以下「インボイス」といいます。)など)を保存することができなかった場合には、帳簿書類(インボイスなど)を保存することなく、仕入税額控除を行うことができます。 ・ 被災により消費税の課税仕入れに係る帳簿書類を消失した場合 ・ 売手である適格請求書発行事業者(以下「インボイス発行事業者」といいます。)が被災したことでインボイスの交付を行うことができず、取引先(買手)においてそのインボイスを保存することができなかった場合

(国税庁・令和8年熊本地震により被害を受けた場合の消費税の届出等に関する特例について p.1。2026年9月27日に取得。原文ママ)

誰の帳簿書類が無いのか誰が被災しているのか
1つ目自社の帳簿書類が消失した自社
2つ目買手である自社がインボイスを保存できない売手

2つ目は、自社の帳簿が焼けた話ではありません。取引先が被災してインボイスを出せなくなり、その結果、受け取る側に保存すべき書類が来なかった、という場合です。

条文の側も「当該事業者において証明した場合」としか書いておらず、事業者自身が被災していることを文言上の要件としては挙げていません。

ただし、ここから先は条文と通達が答えを置いていない領域です。個別の取引がこの扱いに当たるかどうかは、税理士または税務署にご確認ください。

証明するのは、事業者の側です

最後に、条文の主語を確かめておきます。

災害その他やむを得ない事情により、当該保存をすることができなかつたことを当該事業者において証明した場合は、この限りでない。

「当該事業者」とは、控除を受けようとする事業者、つまり自社です。

何をもって証明とするかを、条文も通達も定めていません。必要な書類や手続については、税務署または税理士にご確認ください。

届出書の「やむを得ない事情」とは別の系統です

同じ「やむを得ない事情」という言葉が、届出書を期限に出せなかったときの話でも出てきます。こちらは条文の系統が違います。

仕入税額控除の側届出書の側
条文消費税法30条7項ただし書(および11項ただし書)消費税法9条9項・37条8項が政令に委ねた承認
語の意義を書いた通達11-2-22 → 8-1-4(2号構成)1-4-16(4号構成。相続に関する号を含む)
何が認められるのか保存がなくても30条1項を適用しない扱いをしない課税期間の初日の前日に提出したものとみなされる

列挙されている中身も同じではありません。届出書の側の1-4-16には相続に関する号がありますが、8-1-4は2号構成です。

届出書の側の詳しい扱いは、[届出書が期限に間に合わなかったときの承認は2種類あります](/articles/yamuoenai-jijo-todokede-shonin/)で扱っています。

条文と通達のまとめ

何を定めているか根拠
帳簿及び請求書等を保存しない場合は仕入税額控除を適用しない消費税法30条7項 本文
災害その他やむを得ない事情により保存できなかったことを事業者において証明した場合は、この限りでない消費税法30条7項 ただし書
本人確認書類(金・白金の地金)について同じ定め消費税法30条11項 ただし書
「災害その他やむを得ない事情」の意義は8-1-4による消費税法基本通達 11-2-22
「災害」「やむを得ない事情」の範囲(2号構成)消費税法基本通達 8-1-4
原則を述べるにあたり、ただし書該当分を括弧書きで除外消費税法基本通達 11-2-23

自社の事情がただし書に当たるかどうか、また実際に何を用意すればよいかについては、税理士または税務署にご確認ください。

経営者の疑問と、制度の事実

答えるのは制度の事実だけです。有利・不利は事業ごとの事情で変わるため、判断は税理士・税務署にご確認ください。

経営者去年の火事で、仕入れの請求書もインボイスもまとめて焼けてしまいました。保存していないのだから、その分の消費税はもう引けないということでしょうか。

制度の事実消費税法30条7項の本文は、帳簿及び請求書等を保存しない場合には、その保存がない課税仕入れ等の税額について仕入税額控除の規定を適用しないと定めています。ただし同項にはただし書があり、「災害その他やむを得ない事情により、当該保存をすることができなかつたことを当該事業者において証明した場合は、この限りでない」と書かれています。消費税法基本通達8-1-4は「災害」に火災その他の人為的災害で自己の責任によらないものに基因する災害を挙げています。自社の事情がこのただし書に当たるかどうかの判断は、税理士または税務署にご確認ください。

経営者うちは被災していません。仕入先のほうが被災して、インボイスを出せないと言ってきました。この場合はどうなりますか。

制度の事実国税庁が令和8年熊本地震について公表したリーフレットは、帳簿書類を保存することができなかった場合として2つを挙げており、その2つ目が「売手であるインボイス発行事業者が被災したことでインボイスの交付を行うことができず、取引先(買手)においてそのインボイスを保存することができなかった場合」です。また条文は「当該事業者において証明した場合」としか書いておらず、事業者自身が被災していることを文言上の要件としては挙げていません。ただし、個別の取引がこの扱いに当たるかどうかを判断できる材料を、条文と通達は置いていません。当てはめは税理士または税務署にご確認ください。

経営者届出書を期限に出せなかったときにも「やむを得ない事情」という言葉が出てきました。同じものですか。

制度の事実条文の系統が違います。届出書の側は消費税法9条9項・37条8項が政令に委ねた承認の制度で、そこでの「やむを得ない事情」を列挙しているのは消費税法基本通達1-4-16です。仕入税額控除の側は30条7項ただし書で、その語の意義は11-2-22が8-1-4を参照しています。列挙の中身も同じではなく、1-4-16には相続に関する号がありますが、8-1-4は2号構成です。どちらの制度の話かによって参照する条文が変わりますので、自社の事情については税理士または税務署にご確認ください。

よくある質問

帳簿やインボイスを保存できなかった場合について、条文に定めはありますか。
消費税法30条7項のただし書が「ただし、災害その他やむを得ない事情により、当該保存をすることができなかつたことを当該事業者において証明した場合は、この限りでない」と定めています。同条11項(金または白金の地金の課税仕入れの相手方の本人確認書類)のただし書も同じ文言です。個別の事情がこれに当たるかどうかについては、税理士または税務署にご確認ください。
これは特定非常災害に指定された災害だけの話ですか。
30条7項ただし書の文言は「災害その他やむを得ない事情」で、特定非常災害の指定や地域の指定、指定日を要件として挙げていません。特定非常災害の被災事業者について届出書の提出期限などを定めた制度は、租税特別措置法86条の5に別に置かれています。両者は条文が異なります。自社の事情の当てはめは、税理士または税務署にご確認ください。
「災害その他やむを得ない事情」とは何を指しますか。
消費税法基本通達11-2-22が、30条7項ただし書および同条11項ただし書に規定する「災害その他やむを得ない事情」の意義については8-1-4による、としています。8-1-4は(1)「災害」を震災、風水害、雪害、凍害、落雷、雪崩、がけ崩れ、地滑り、火山の噴火等の天災または火災その他の人為的災害で自己の責任によらないものに基因する災害とし、(2)「やむを得ない事情」を前号に規定する災害に準ずるような状況または当該事業者の責めに帰することができない状況にある事態としています。
定義が「輸出物品販売場」の章にあるのはなぜですか。
8-1-4は、消費税法8条2項ただし書(輸出物品販売場免税の不適用の規定を適用しない場合等)に規定する「災害その他やむを得ない事情」の意義を定めた通達です。11-2-22は、仕入税額控除の側の同じ語について、その8-1-4によると参照する形を採っています。通達の番号としては第8章にありますが、11-2-22の参照によって30条7項ただし書の語の意義としても用いられる、という構成です。
取引先が被災してインボイスをもらえなかった場合はどう書かれていますか。
国税庁が令和8年熊本地震について公表したリーフレットは、帳簿書類を保存することができなかった場合として2つを挙げており、その2つ目が「売手であるインボイス発行事業者が被災したことでインボイスの交付を行うことができず、取引先(買手)においてそのインボイスを保存することができなかった場合」です。個別の取引がこれに当たるかどうかについては、税理士または税務署にご確認ください。
「証明した場合」とありますが、誰が証明するのですか。
条文の文言は「当該保存をすることができなかつたことを当該事業者において証明した場合」です。証明する側として書かれているのは、控除を受けようとする事業者の側です。何をもって証明とするかについて、条文と通達は具体的な書類を定めていません。実際の手続については、税理士または税務署にご確認ください。

個別の判断について

適用の可否や有利・不利は、事業区分・基準期間の課税売上高・過去の届出など個別の事情で変わります。実際の判断の前に、税理士等の専門家、または所轄の税務署にご相談ください。

出典(一次情報)

法令・国税庁・省庁など公的機関の公表資料のみを参照しています(解説記事等の二次情報は使用していません)。

本ページは公表されている制度情報にもとづく解説と試算の補助であり、税務に関する助言ではありません。個別の判断は必ず税理士等の専門家にご確認ください(所轄の税務署でも確認できます)。

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